12-09-11 「努力」よりも「たまたま」が大切、って?

わたしのお気に入りの心理学理論のひとつに、「計画された偶然性理論(Planned Happenstance Theory)」というのがあります。

これはどういう理論か、というと、人の「成功」とか「幸せ」に関して、「偶然の出来事」に着目しているのです。心理学と「偶然の出来事」って、ちょっと不思議な組み合わせのように感じますか?でもユングの時代から、心理学では物事の「意味のある偶然」「必然的な偶然」に着目してきました。

あるとき、達成したい目標に向かって努力していたわたしは、自分にしてはそれなりに日々頑張っていたのです。しかし、やっても、やっても、やったわりには形にならない、いい方向にいかない、ということが続き、そのうち「もう努力したって、何の結果もついてこないじゃない!」としびれを切らしそうになったときに、この理論に出会いました。

そこには、「成功というのは、じつは努力や才能に比例するのではなく、もっと別のことに左右されている。別のこととは、生活の中でおこる、“偶然の出来事”のこと。努力によって成し遂げられた成功はおおよそ全体の20%であり、残りの80%は偶然という出来事に導かれている」ということでした。

実際に社会的な成功をおさめている人たちに調査し統計をとったところ、彼らの人生のターニングポイントは努力でもたらされたものではなく、生活の中で巡りくる偶然の出来事だったそうな。つまり「たまたま○○さんに出会ったから」「たまたま△△に行ったから」「たまたま××しちゃって」など。

これを知って、「そ〜か、そういうこと?」と妙に納得したわたし。思いあたるフシがいろいろありました。

え〜、努力はいらないの?と思われるかもしれませんが、そういうわけでもありません。妥当な努力をして、そのうえ「偶然の出来事」に心を開いていることが大切なのです。犬もあるかなければ棒にあたりもしないので、目標を設定し行動しつつも、この偶然的な出来事が起るようにいろいろなことに心を開いていること。だからこそ、何もしないわけではない「計画された偶然」なのです。

この理論を提唱したクルンポルツ博士は、彼自身はもともと心理学の研究者になるつもりは毛頭なく、趣味でテニスをやりはじめたときに、そのテニスの先生が「たまたま」心理学者だったそうな。そこから、彼は心理学に開眼してゆきます。そして、世界的に有名な心理学者としての天職を手にしたのでした。

そういえば、数百ものヒット曲を生んだ作詞家の安井かずみさんも、こんなことを話していましたっけ。学生の頃にピアノの楽譜を買いに行って、係の人が在庫を調べに行っている間に応接室で待たされたそうな。そこで数人のおじさんたちが洋楽の訳詞をしながら苦しんでいて、フランス語と英語に堪能だった彼女が「そこは、こんな言葉がよろしいんじゃなくって?」と「たまたま」口をはさんでしまったことから、「君、これも訳せる?」ってなことになり、訳詞や作詞をスタート。画家をめざしていた彼女はいつのまにか売れっ子の作詞家になっていたのでした。

アーティストにしろ、ミュージシャンにしろ、そんな「たまたま・・・」という話しを、よく耳にします。

思いあたりませんか?ご自分の人生にも。自分はまったく意図していなかったけれど、「たまたま」ある人、ある出来事との出会いから、自分の人生が方向づけられ、導かれていくようになったこと。

この理論からすると、あまりにガチガチに自分の人生の設計図を描きすぎるのはよくないということになります。

なぜなら、人はいろいろなこととの出会いによって日々変化・成長を続けているので、じつは昨日の自分ときょうの自分はもう違っていて、昨日の目標もきょうには古くなっていることがあります。あまりにも長期の目標をたてると、じつはもう興味がなくなてしまった目標に引きずりまわされることになります。それに、ガチガチの目標は、少しでもそこに沿っていない自分を発見すると「自己イメージ」が低下してしまうことに。目標を達成できない自分に「挫折感」を感じるはめになるかもしれません。

だから、大まかな行き先である目標は決めつつも、日々自分の目の前にぶらさがってくる出来事や人に対してオープンな興味を持ち、それを取り入れつつ柔軟に変化してゆくことが大切です。そのようにしてわたしたちは、どうやら自分の「使命」ともいえるものにおのずと導かれてゆくようにも感じます。

クルンボルツ先生いわく、「たまたま」の出来事を「プランド・ハプンスタンス(計画された偶然)」に変え、自分の人生に流れを作っていくためには次のことが役に立つと言っています。

1、好奇心・・・いろいろなことに興味をもてるフレッシュな心
2、粘り強さ・・・自分が納得ができるまでめげない、決してあきらめない強さ
3、柔軟榮・・・こだわりを持ちすぎないで、こっちがダメならあっちな態度
4、楽観性・・・のーてんきさ
5、リスクをとれる・・・ターニングポイントはリスクの連続、ダメもとでやってみること

もともと、アタマで計画したり考えたりしていることって、わたしたちの能力や可能性のほんの3%にしか満たない力で行われています。だから、あまりアタマに頼りすぎるよりも、神さまが目の前に転がしてくれる物ごと(じつはチャンスであり、ターニングポイント)にしっかり心を開いて、それについてゆけることが、楽しく、自分らしい人生になる秘訣なのかもしれません。

このように偶然の出来事に導かれながら、わたしたちの人生って自分が生まれてくる前に決めてきた人生の青写真(使命)に向かって導かれてゆくのかもしれません。

柔軟であること、好奇心旺盛であること、わくわくできること、なんでも挑戦しちゃうこと・・・・プランド・ハプンスタンスを手にするためには、いつまでも「お子ちゃま」の心を失わないでいることが大切なようですね。