19-04-24 君の名前で僕を呼んで

北イタリアの美しい田舎町。避暑にやってきたひとつの家族。仲むつまじい夫と妻、そして二人の愛情を一身に受けて成長する息子のエリオット。

夏のあいだ、その別荘に集うさまざまな人たち、親戚やら夫妻の友人、息子の女友達、邸で働く人々 ・・・ そして、その夏そこへ迎えいれられた大学院生の青年 オリヴァー。

十七歳のエリオットは、聡明でものおじしないオリヴァーをはじめは鼻もちならない自信家として嫌厭するのですが・・・ ともに時間をすごすうちにどんどんこころを奪われてゆく自分に気がつきます。

隠したいのに、隠せないほとばしる気持ち ・・・。ゆれ動くこころ・・・。おしよせるさまざまな感情・・・。

画面にさまざまな音があふれています。

ときにはセリフさえもかき消してしまいそうなバイクや自転車の車輪の音、鳥たちのさえずり、木々や風のざわめき、水のしたたる音、古い邸のきしむ音、グラスやお皿のぶつかりあう音、人々のざわめきや笑い声、ピアノの音色、虫の声、夜のしじま ・・・ まるでそこに自分がいるような生き生きとした感覚があります。

そして、このさまざまな音のなかで、かえって際立つ静寂。エリオットのこころの動きがありありと伝わってきます。

ここに登場するお父さんとお母さんがすごくいいのです。

大切な愛を見失ってしまったと感じている息子に、「お互いを見出せて、幸せだったじゃないか。私がついているよ」とお父さん。

「人は早く立ち直ろうとこころを削り、それによって新たな相手に与えるものも失われてしまう」(なんという言葉!)。だから、「痛みを葬りさるな。そして、感じた喜びも大切にしなさい」と。

誰もが感じたことがある、人を好きになってしまったときのはじける喜びやこころの痛み。透明があって、みずみずしさにあふれる美しい一本でした。